量子力学 I 講義ノート
— 2017 年度後期 —
棚橋 誠治 2018/2/9版
目 次
1 はじめに 1
1.1 シュテルン・ゲルラッハ(SG)実験 . . . . 1
1.2 連続したSG実験 . . . . 2
1.3 SG実験と光の偏極(偏光)との類似 . . . . 3
1.4 電磁気学での偏光の理解 . . . . 4
1.5 状態の重ね合わせとSG実験. . . . 7
1.6 2重スリット実験 . . . . 10
1.7 粒子と波動関数 . . . . 11
2 波動関数とシュレディンガー方程式 13 2.1 確率解釈. . . . 13
2.2 分散関係と群速度 . . . . 15
2.3 シュレディンガー方程式と分散関係 . . . . 18
2.4 運動量空間での波動関数と不確定性関係 . . . . 20
2.5 確率の保存と確率流 . . . . 22
2.6 期待値 . . . . 24
3 時間に依存しないシュレディンガー方程式 27 3.1 シュレディンガー方程式の変数分離 . . . . 27
3.2 状態の時間発展 . . . . 28
3.3 箱に閉じ込められた粒子 . . . . 30
3.4 エネルギー固有関数とエネルギーの測定 . . . . 32
3.5 エネルギー固有値が連続的な場合 . . . . 33
4 1次元量子力学 33 4.1 散乱問題: 段差ポテンシャル . . . . 34
4.2 散乱問題: 井戸型ポテンシャル . . . . 36
4.3 散乱問題: ポテンシャル障壁 . . . . 39
4.4 パリティ. . . . 40
4.5 束縛状態: 井戸型ポテンシャル . . . . 42
4.6 束縛状態: デルタ関数ポテンシャル . . . . 48
4.7 調和振動子 . . . . 49
5 ヒルベルト空間と観測可能量 54 5.1 波動関数とヒルベルト空間 . . . . 54
5.2 正規直交系とエルミート演算子 . . . . 56
5.3 完全系と観測可能量(オブザーバブル) . . . . 58
5.4 演算子の交換関係と同時観測可能量 . . . . 63
5.5 ハイゼンベルグの不確定性関係 . . . . 64
5.6 状態の無限小変換と演算子の交換関係、解析力学との対応 . . . . 66
5.7 状態の時間発展とシュレディンガー方程式 . . . . 68
5.8 シュレディンガー表示とハイゼンベルグ表示 . . . . 71
6 演算子法 72 6.1 調和振動子のエネルギー準位. . . . 72
6.2 調和振動子の波動関数 . . . . 74
6.3 調和振動子のハイゼンベルグ表示 . . . . 75
7 角運動量の量子化: 球面調和関数 76 7.1 2次元の角運動量 . . . . 76
7.2 3次元角運動量の交換関係 . . . . 79
7.3 球面調和関数 . . . . 80
7.4 球面調和関数の完全性 . . . . 86
8 角運動量の量子化: 3次元回転群の表現 87 8.1 昇降演算子 . . . . 87
8.2 Nlmの符号(球面調和関数の位相の約束) . . . . 90
8.3 状態の回転変換 . . . . 92
8.4 角運動量の行列表示と3次元回転群SO(3)の表現 . . . . 92
9 3次元量子力学の中心力問題 97 9.1 水素類似原子 . . . . 98
9.2 エネルギー準位 . . . . 99
A 複素ベクトル空間と内積 105 B エルミート行列の性質 106 B.1 行列の成分表示 . . . . 106
B.2 転置・複素共軛・エルミート共軛 . . . . 107
B.3 エルミート行列とユニタリー行列 . . . . 107
B.4 エルミート行列の指数関数 . . . . 110
B.5 量子力学との類似 . . . . 110
C 散乱行列(S-行列)と転送行列(M-行列) 111
D ブロッホの定理 114
E 直交多項式 117
E.1 エルミート多項式 . . . . 117
E.2 ルジャンドル多項式 . . . . 120
E.3 ゲーゲンバウアー多項式 . . . . 122
E.4 ラゲール多項式 . . . . 124
F コヒーレント状態 125 F.1 調和振動子の復習 . . . . 125
F.2 量子ゆらぎ∆xと∆p . . . . 126
F.3 コヒーレント状態 . . . . 127
F.4 コヒーレント状態の性質 . . . . 129
F.5 ベーカー・キャンベル・ハウスドルフの公式 . . . . 132
F.6 そのほかの最小不確定性状態. . . . 133
G 球座標・円筒座標系でのラプラシアン 134 G.1 デカルト座標系 . . . . 134
G.2 円筒座標系 . . . . 135
G.3 球座標系. . . . 136
H 球座標における角運動量の微分演算子 137 H.1 2次元極座標 . . . . 137
H.2 3次元極座標(球座標) . . . . 138
H.3 (L⃗op)2 の具体形. . . . 139
I 超球面調和関数とSO(4)対称性 140 I.1 超球面調和関数 . . . . 140
I.2 4次元空間角運動量の量子化(演算子法) . . . . 144
J 球ベッセル関数と3次元井戸型ポテンシャル 145 J.1 3次元自由粒子波動関数の球座標表示. . . . 145
J.2 球ベッセル関数 . . . . 146
J.3 球の内部に閉じ込められた粒子 . . . . 150
J.4 3次元球対称井戸型ポテンシャル . . . . 151
この講義を聴いていて、疑問に感じることがあれば、講義時間内に積極的に質問すること。良い 質問は、質問者だけでなく、多くの聴衆にとって有益である。(講義時間中になされた良い質問に は、成績に特別加点を与える可能性もある。)
講義を聴いただけ、出題された演習問題を解いただけでは、量子力学を十分に理解するレベルに は到達できない。自分にあった(できれば複数の)教科書を読みこなすなど、自主的に勉強するこ とが望ましい。図書室には多くの量子力学の教科書が備えられているので、それらに目を通したう えで、自分にあった教科書を購入すること。その際、薄い教科書は必要な説明が省略されているこ とが多いので、初学者にはあまりお勧めできない。現在、
い ぎ
猪木・川合 「量子力学I, II」が量子力 学の教科書の定番になっているようである。また、英語が原書の教科書を選択する場合、日本語訳 は翻訳が硬く読みにくいこともある。大学院では英語での読み書きが必要になるので、今のうちに 意識して英語の原書教科書を(も)読むことを勧める。電子書籍など、英語の原書の方が翻訳本に 比べて格段に安価に入手できる場合もある。
参考書(今回の講義準備に用いる参考書)
• ガシオロウィッツ 「量子力学I」丸善出版、林・北門 共訳
第2版の翻訳。例題がたくさん紹介されている。昨年度は品切れになって入手しにくかった。
• 猪木・川合 「量子力学い ぎ I, II」講談社サイエンティフィック 日本での標準的な教科書。おすすめ。
• 桜井純 「現代の量子力学」吉岡書店、桜井明夫訳
今回の講義ではシュテルン・ゲルラッハ実験を説明の出発点とするが、このスタイルはこの 教科書にならったもの。高度な内容が含まれるので、初学者には少し難解かもしれない。今 回の講義を履修することによって、この教科書を自習できるようになることを期待している。
• S. Gasiorowicz, “Quantum Physics”, 3rd edition, John Wiley & Sons Pub.
前述のガシオロウィッツの翻訳版の原書。第3版になって豊富な例題の多くがウェブページ に移動し、教科書自体はコンパクトになった。
• J.J. Sakurai “Modern Quantum Mechanics”, Addison-Wesley Pub.
前述の桜井の翻訳版教科書の原書。こちらも原書は第2版になっている。
• R. Shankar “Principles of Quantum Mechanics”, Springer
G30コースでの量子力学の教科書。詳しく説明されているので、英語を苦にしなければ比 較的自習しやすい。ただし、その分、読むべき分量は多い。著者の講義の様子がビデオレク チャーとして公開されている。
参考書(そのほか)
• 猪木・川合 「基礎 量子力学」講談社サイエンティフィック コンサイス版の「猪木・川合」。
• 日笠健一 「量子力学」 朝倉書店
量子力学で使う最低限の式や考え方が要領よくまとめられている。説明をわかりやすくする ためといって記述が不正確になっていることもない。ひととおり量子力学を勉強したあとで この教科書を読むと自分の理解が鮮明になる。
• 倉本・江澤「量子力学」朝倉書店
他のコンパクトな教科書ではあまり触れられることのない事項、たとえば、厳密に解くこと ができる場合に存在する対称性や、ベルの不等式などの話題にも触れている。特徴のある教 科書。
• シッフ 「量子力学 上,下」井上訳、吉岡書店
演習問題が豊富。問題を解けるようになる教科書。発展的な話題も解説されている。
• メシア 「量子力学1, 2, 3」小出・田村 訳、東京図書 量子力学のさまざまな内容が広く網羅されている教科書。
• L.I. Schiff “Quantum Mechanics”, McGraw-Hill Inc.
前述のシッフの翻訳版教科書の原書。
• D.J. Griffiths “Introduction to Quantum Mechanics”, Cambridge University Press 簡潔な記述で、量子力学の要点が整理されている。重要な事項が枠で囲まれて強調されてい るなど、読みやすさも重視されている。基本的で量子力学を理解するのに役立つ演習問題も 数多く収集されている。おすすめ。
講義資料
• この講義ノートを名古屋大学オープンコースウェア(OCW)に置く予定。講義ノートに記載 されている数式等は板書を省略することがあるので、各自ダウンロードし、講義時にも持っ てくること。なお、講義での説明の順番は、この講義ノートに書かれた順番にほぼ一致させ るつもりである。次回の講義で進むと思われる箇所について、あらかじめ講義ノートにひと とおり目を通しておくことを勧める。
演習問題/定期試験問題
• 2017年度の演習問題/定期試験問題を
http://www.eken.phys.nagoya-u.ac.jp/~tanabash/lecture/qm1-17/
に置く。演習問題を解く上で役立つ知識をこの講義ノートの付録A〜Jにまとめておくので 必要に応じて自習すること。
成績
• 定期試験による。
連絡先
• 電子メール: [email protected]
• 内線: 2859
• 部屋: ES719
1 はじめに
1.1 シュテルン・ゲルラッハ(SG)実験
シュテルン・ゲルラッハ(Stern-Gerlach)の実験(1922) 銀原子を非一様な磁場に一定速度で入射するとどうなるか?
N
S Ag
?
銀原子は、スピンと呼ばれる微小な磁気双極子モーメントの自由度を持ち、磁場を感じて軌道が 曲げられる。古典力学では、
N
S
N
S
N
S
S
N
となることが予想される。
入射する銀原子の磁気双極子モーメントの方向がランダムなときはどうなるか?古典力学での予 想では、(各自、下図に書き込むこと)
N
S
screen
#events z
実際のSG実験の結果は、(各自、下図に書き込むこと)
N
S
screen
#events z
この結果が意味すること:銀原子の磁気双極子モーメントのz成分はとびとびの値を持っている
(量子化されている)。
このように磁気双極子モーメントが量子化される現象は古典力学では記述できないので、まった く新しい記述方法(量子力学、Quantum Mechanics)が必要になる。量子力学では、物理量がと びとびの値になる現象がしばしば起きる。
注意:z方向だけでなく、x方向や,y方向に磁場をかけて同様の実験を行っても同じように量子 化されていることがわかる。つまり、z方向が特別なのではない。
1.2 連続したSG実験
複数のSG実験を続けて行うとどうなるか?
• SGzz装置
z成分の磁気双極子モーメントを測るSG実験(SGz装置とよぶことにする)でz方向↑向き である銀原子(Sz↑)をあらかじめ選別してから、もう一度SGz装置に銀原子ビームを通し た場合。
SG z
Sz
block
結果: Sz↑のビームは出てくるが、Sz↓のビームは出てこない。(あたりまえ)
• SGzx装置
z成分の磁気双極子モーメントを測るSG実験(SGz装置とよぶことにする)でz方向↑向き である銀原子(Sz↑)をあらかじめ選別したのち、Sz↑であることが確定した銀原子ビームを こんどはx成分の磁気双極子モーメントを測るSGx装置にかけた場合。
SG z
Sz
block
結果: Sx↑の銀原子とSx↓の銀原子の両方に分けられ、Sx↑とSx↓で同量のビームがでて くる。(ちょっと不思議?)
• SGzxz装置
銀原子ビームを次図のようにSGz, SGx, SGzに順番にかける。
SG z
Sz
block
結果: Sz↑とSz↓で同量のビームがでてくる。最初のSGz装置で、Sz↓の銀原子はなくし ているはずなのに、最後の段階でまた現れる。(かなり不思議??)
• SGzzx装置、SGxzz装置、SGzxzx装置について各自考えてみよう。
量子力学では、このような不思議な振る舞いが正しく記述されねばならない。
1.3 SG実験と光の偏極(偏光)との類似
偏光板を用いて、特定の方向に偏極(偏光)した光を選ぶことができる。
もちろん、斜め方向に偏極した光(“↗↙”偏極した光)を作ることもできる。
“↕”偏極した光(“↔”偏極した光)をSG実験でのSz↑銀原子(Sz↓銀原子)に対応させて考 えてみる。同様に、”↗↙”偏極した光(“↖↘” 偏極した光)をSG実験でのSx↑銀原子(Sx↓銀原 子)を対応させて考える。偏光板を用いて、次のようなSG実験との類似実験を行おう。
• SGzz類似実験
”↕”偏極した光を作ってから、“↕”偏光板や”↔”偏光板に通す。
結果: “↕”偏極した光はでてくるが、“↔”偏極した光はでてこない。(あたりまえ)。
• SGzx類似実験
”↕”偏極した光を作ってから、“↗↙”偏光板や”↖↘”偏光板に通す。
結果: “↗↙”偏極した光と“↖↘”偏極した光が同じ量だけでてくる。(不思議?)
• SGzxz類似実験
”↕”偏極した光を“↗↙”偏光板に通したあとで、“↕”偏光板や”↔”偏光板に通す。
結果: “↕”偏極した光と“↔”偏極した光が同じ量だけでてくる。(とても不思議??)
• SGzzx類似実験、SGxzz類似実験、SGzxzx類似実験について各自考えてみよう。
1.4 電磁気学での偏光の理解
前節では、SG実験の結果が、光の偏光の実験結果と類似していることがわかった。では、光の 偏光の実験結果は、電磁気学ではどのように理解できるだろうか?次にこのことを考えよう。
光(電磁波)の作る電場の方向として偏光を説明できる。真空中で、y方向に進む角振動数ωの 平面波の電磁波の作る電場は
E⃗ =αz⃗ezsin (ω(t−y/c) +δz) +αx⃗exsin (ω(t−y/c) +δx) (1.1)
と書き表すことができる。ここで、⃗ez,⃗exは、それぞれz方向,x方向の単位ベクトル。cは真空中 の光の速さである。電場の向きは、光の進行方向と垂直であることに注意。αz,αx(δz,δx)はz方 向,x方向の振幅(位相)を表す。
前節の偏光板実験の“↕”をz方向にとり、“↔”をx方向に取って考える。
• “↕”偏光板の役割:
E⃗ ⇒⃗ez(⃗ez·E).⃗
• “↔”偏光板の役割:
E⃗ ⇒⃗ex(⃗ex·E).⃗
• “↗↙”偏光板の役割:
E⃗ ⇒ 1
2(⃗ez+⃗ex)((⃗ez+⃗ex)·E).⃗ ここで、単位ベクトル(⃗ez+⃗ex)/√
2 は↗↙の方向であることに注意。
• “↖↘”偏光板の役割:
E⃗ ⇒ 1
2(⃗ez−⃗ex)((⃗ez−⃗ex)·E).⃗ ここで、単位ベクトル(⃗ez−⃗ex)/√
2 は↖↘の方向であることに注意。
ここで、⃗α·β⃗は、ベクトル⃗αとベクトルβ⃗の内積を表す。
記号が煩雑になるのを避けるため、ディラックが導入したブラケット記法(Bra-Ket notation)
を使って説明しよう。この場合、
• ケット(Ket): この節では、ベクトルを表す。例えば、
|E⃗⟩ = E,⃗
| ↕⟩ = ⃗ez,
| ↔⟩ = ⃗ex,
|↗↙⟩ = 1
√2(| ↕⟩+| ↔⟩),
|↖↘⟩ = 1
√2(| ↕⟩ − | ↔⟩), のように使う。
• ブラ (Bra): ケットに作用して内積を作る操作を表す。この節では、たとえば、任意のケッ ト|α⟩=α⃗に対し
⟨E⃗| : ⟨E⃗|⃗α⟩=E⃗ ·⃗α,
⟨↕ | : ⟨↕ |⃗α⟩=⃗ez·⃗α,
⟨↔ | : ⟨↔ |α⃗⟩=⃗ex·⃗α,
⟨↗↙| : ⟨↗↙|⃗α⟩= 1
√2(⃗ez+⃗ex)·α,⃗
⟨↖↘| : ⟨↖↘|⃗α⟩= 1
√2(⃗ez−⃗ex)·α,⃗ となる作用を示す。
ブラケット記法を用いると、偏光板の役割は
• “↕”偏光板の役割:| ↕⟩ ⟨↕ |
|E⃗⟩ ⇒ | ↕⟩⟨↕ |E⃗⟩
• “↔”偏光板の役割:| ↔⟩ ⟨↔ |
|E⃗⟩ ⇒ | ↔⟩⟨↔ |E⃗⟩
• “↗↙”偏光板の役割:|↗↙⟩ ⟨↗↙|
|E⃗⟩ ⇒ |↗↙⟩⟨↗↙|E⃗⟩
• “↖↘”偏光板の役割:|↖↘⟩ ⟨↖↘|
|E⃗⟩ ⇒ |↖↘⟩⟨↖↘|E⃗⟩ と簡潔に書き下すことができる。
ブラケット記法を用いて、SG類似実験を理解してみよう。
• SGzz類似実験
| ↕⟩⟨↕ | ↕⟩ ⟨↕ |=| ↕⟩ ⟨↕ |
となって“↕”偏光板が一枚ある場合に等しい。⟨↕ | ↕⟩= 1に注意。
| ↔⟩⟨↔ | ↕⟩ ⟨↕ |= 0 したがって、光はでてこない。⟨↔ | ↕⟩= 0に注意。
• SGzx類似実験
|↗↙⟩⟨↗↙| ↕⟩ ⟨↕ |= 1
√2|↗↙⟩ ⟨↕ |
⟨↗↙| ↕⟩= 1/√
2に注意。
|↖↘⟩⟨↖↘| ↕⟩ ⟨↕ |= 1
√2|↖↘⟩ ⟨↕ |
⟨↖↘| ↕⟩= 1/√
2に注意。
• SGzxz類似実験
| ↕⟩⟨↕ |↗↙⟩⟨↗↙| ↕⟩ ⟨↕ |= 1 2| ↕⟩ ⟨↕ |
⟨↕ |↗↙⟩=⟨↗↙| ↕⟩= 1/√
2に注意。
| ↔⟩⟨↔ |↗↙⟩⟨↗↙| ↕⟩ ⟨↕ |= 1
2| ↔⟩ ⟨↕ |
⟨↔ |↗↙⟩=⟨↗↙| ↕⟩= 1/√
2 に注意。
• SGzzx類似実験、SGxzz類似実験、SGzxzx類似実験について各自考えてみよう。
偏光板の働きを理解するための鍵は、ベクトルの重ね合わせと内積。
1.5 状態の重ね合わせとSG実験
光の偏極のときと同様の方法を使って、SG装置の振る舞いを理解するには、銀原子のSz↑状態 とSz↓状態の重ね合わせ1を考える必要がある。そこで、偏光のときと同様に、ディラックのブ ラケット記法を使って、銀原子の状態を表すことにする。
• 銀原子のSz↑状態: |Sz↑⟩
• 銀原子のSz↓状態: |Sz↓⟩
1このように状態の「重ね合わせ」を考えることが、古典力学とは異なる量子力学の本質的特徴である。
内積は
⟨Sz↑ |Sz↑⟩=⟨Sz↓ |Sz↓⟩= 1, ⟨Sz↑ |Sz↓⟩=⟨Sz↓ |Sz↑⟩= 0.
SG実験と偏光との対応
Sz↑銀原子⇔“↕”偏光, Sz↓銀原子⇔“↔”偏光 Sx↑銀原子⇔“↗↙”偏光, Sx↓銀原子⇔“↖↘”偏光 に注意すると、銀原子のSx↑状態とSx↓状態は
|Sx↑⟩= 1
√2(|Sz↑⟩+|Sz↓⟩),
|Sx↓⟩= 1
√2(|Sz↑⟩ − |Sz↓⟩), であることが期待される。
この解釈では、銀原子の磁気双極子モーメントの任意の状態は、|Sz↑⟩と|Sz↓⟩との重ね合わせ の状態
|S⟩=|Sz↑⟩sz↑+|Sz↓⟩sz↓ (1.2) で書き表される。ここで、sz↑とsz↓は|sz↑|2+|sz↓|2= 1となる複素数。(複素数とせねばならな い事情については、演習問題1-2を参照。)同じ状態|S⟩は、|Sx↑⟩と|Sx↓⟩との重ね合わせの状 態としても
|S⟩=|Sx↑⟩sx↑+|Sx↓⟩sx↓, (1.3) と書き表すことができるはずで、重ね合わせの係数sx↑,sx↓は
( sx↑ sx↓
)
=T ( sz↑
sz↓
)
, T = 1
√2
( 1 1 1 −1
)
と計算できる(各自、確かめてみよ)。
この解釈で、SG実験の結果を正しく説明できることを、具体的に見てみよう。
• Sz↑だけを通過させるSGz装置の役割: |Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |
SG z
Sz
block
• Sz↓だけを通過させるSGz装置の役割: |Sz↓⟩ ⟨Sz↓ |
SG z
Sz
block
• Sx↑だけを通過させるSGx装置の役割: |Sx↑⟩ ⟨Sx↑ |
SG x
Sx
block
• Sx↓だけを通過させるSGx装置の役割: |Sx↓⟩ ⟨Sx↓ |
SG x
Sx
block
であることに着目する。これより
• SGzz装置
SG z
Sz
block
|Sz↑⟩⟨Sz↑ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |=|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |,
|Sz↓⟩⟨Sz↓ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |= 0.
• SGzx装置
SG z
Sz
block
|Sx↑⟩⟨Sx↑ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |= 1
√2|Sx↑⟩ ⟨Sz↑ |,
|Sx↓⟩⟨Sx↓ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |= 1
√2|Sx↓⟩ ⟨Sz↑ |.
• SGzxz装置
SG z
Sz
block
|Sz↑⟩⟨Sz↑ |Sx↑⟩⟨Sx↑ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |= 1
2|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |,
|Sz↓⟩⟨Sz↓ |Sx↑⟩⟨Sx↑ |Sz↑⟩⟨Sz↑ |= 1
2|Sz↓⟩ ⟨Sz↑ |.
• SGzzx装置、SGxzz装置、SGzxzx装置について各自考えてみよう。
となり、SG実験の結果を正しく説明できる。
1.6 2重スリット実験
前節までで、SG実験の結果を説明しようとすると、状態の「重ね合わせ」を考えねばならない ことを説明した。状態の「重ね合わせ」の概念の必要性を示すもうひとつの実験結果(2重スリッ ト実験)を紹介しよう。
1989年に外村彰らは、次図のように点状の電子線源から、ひとつづつ電子を発射させ、2重スリット を通過させたあとで、スクリーンのどこの場所に当たったかを調べる実験を行った。この実験について は、印象的な写真とビデオがhttp://www.hitachi.com/rd/portal/highlight/quantum/#anc04
(日立製作所のウェブページ)に置いてある。
電子源
2重スリット スクリーン
電子はひとつづつスクリーンに到達し、実験開始直後にスクリーンにあたった電子の場所は、写真
aや写真b(ハイパーテキスト)の白点のようになる。ここで、写真bは写真aよりも後の時刻に
取ったデータであり、より多くの電子が到達している。これらの写真を見ると、ひとつひとつの電 子がスクリーン上の各点に到達しており、電子がたしかに粒子として振舞っていることがわかる。、
スクリーンで位置を測定した時点で、その位置が点として確定している。
しかしながら、より長い時間の記録(スクリーン上の電子の到達場所)を写真にすると写真cや
写真d(ハイパーテキスト)のようになり、明らかな干渉縞が現れ、なんらかの意味で電子が波動
として振る舞うことが明らかになった。この間、電子はひとつづつ発射されており、この装置のな かで同時に存在する電子の数はひとつだけであったことに注意すること。
1.7 粒子と波動関数
前節の実験の結果から、電子が位置の確定した点として、つまり粒子としての性質を持つととも に、干渉縞という波動としての性質を併せ持つことが可視化された。では、この結果が、状態の
「重ね合わせ」でどのように理解できるかを考えてみよう。
電子の位置2が座標xに確定した状態を
|x⟩
と書くことにする。式(1.2)や式(1.3)で見たように、一般の状態は、線形独立な状態の「重ね合 わせ」である。座標xは連続的な変数なので、式(1.2)や式(1.3)での和の代わりに積分で「重ね
2この節以降、しばらくの間、波動関数を考えるときに、空間はx方向1次元だけを考えることにする。y方向、z方 向まで含めて3次元に拡張することは容易である。
合わせ」を書き下すと、一般の状態3 |ψ⟩を
|ψ⟩=
∫
dx|x⟩ψ(x),
で表すことができる。ここで、ψ(x)は波動関数と呼ばれる「重ね合わせ」の係数である。量子力学 では、位置が確定した粒子としての性質は状態|x⟩が受け持ち、波動として性質は波動関数ψ(x) が受け持っている。
演習問題1-2で見るように、重ね合わせの係数(波動関数)ψ(x)は一般的には複素数である。位 置が確定した状態の内積を
⟨x′|x⟩=δ(x−x′)
として、状態|ψ⟩同士の内積を考えてみよう。ここでδ(x−x′)はディラックのデルタ関数である。
ディラックのデルタ関数は、任意の関数f(x)に対し
∫ ∞
−∞
dx δ(x−x′)f(x) =f(x′) となる性質を持つ。
内積⟨ψ|ψ⟩が正定値の実数となるように、ブラ⟨ψ|は波動関数ψの複素
きょうやく
共 軛4を取って
⟨ψ|=
∫
dx′ψ∗(x′)⟨x′| とする。つまり、内積が
⟨ψ1|ψ2⟩=
∫ dx
∫
dx′ψ1∗(x′)ψ2(x)⟨x′|x⟩=
∫
dx ψ∗1(x)ψ2(x) となるようにしておく。従って、⟨ψ1|ψ2⟩の複素共軛は
(⟨ψ1|ψ2⟩)∗=⟨ψ2|ψ1⟩ であることを注意しておく。上記の内積の定義から
⟨ψ|ψ⟩ ≥0 を示すことは容易である。
区間x0< x < x1に粒子を見出す測定装置の役割は
∫ x1 x0
dx′|x′⟩⟨x′| で与えられる。つまり、
∫ x1 x0
dx′|x′⟩⟨x′|ψ⟩=
∫ x1 x0
dx′
∫
dx|x′⟩⟨x′|x⟩ψ(x) =
∫ x1 x0
dx|x⟩ψ(x) である。
3|ψ⟩という記号は、電子の位置がψに確定した状態という意味では使っていないことに注意。この講義ノートで状態 を|⋆⟩の形のケット記号で表すとき、⋆の部分がx、 あるいはx′等であるときは、粒子の位置がxあるいはx′等に確 定した状態を表すものとし、⋆の部分がψ、あるいはψ′,u,u′,· · · であるときは、波動関数がψ(x)、あるいはψ′(x), u(x),u′(x),· · ·である状態を表すものとしている。混乱しないように注意すること。
4「共役」という表記は「共軛」の代用(「軛」が常用漢字ではないため)。「軛」の音読みは「ヤク」(呉音)または「ア ク」(漢音)。訓読みは「くびき」。したがって、「共軛」を「きょうえき」と発音してはならない。「軛(くびき)」は、牛車 で複数の牛を横につなぐ棒のことを意味するらしい。転じて、数学でふたつの量がセットになっているときに使われる漢 字である。「共役」という語で代用すると、このニュアンスが伝わりにくく、しばしば誤読を誘発する。そこで、この講義 ノートでは「共軛」と書くことにする。
2 波動関数とシュレディンガー方程式
2.1 確率解釈
真空中の光の伝播の場合は、電場の大きさの自乗E⃗2が伝播する光の強度に比例する。ブラケッ ト記法では、この量は
⟨E⃗|E⃗⟩=E⃗2 と書ける。“↕”偏光板(| ↕⟩⟨↕ |)を通った後の電場は
| ↕⟩⟨↕ |E⃗⟩ と書けることに注意すると、そのときの光の強度は
⟨E⃗| ↕⟩⟨↕ | ↕⟩⟨↕ |E⃗⟩=⟨E⃗| ↕⟩⟨↕ |E⃗⟩
のように⟨⋆|⋆⟩の形で書けることがわかる。
SG実験での対応を考えよう。銀原子はひとつづつSG装置を通過するので、ビーム強度は考え ることができない。⟨⋆|⋆⟩によって与えられるのは、SG実験の場合は、銀原子の通過確率である と考えられる。たとえば、状態
|S⟩=|Sz↑⟩sz↑+|Sz↓⟩sz↓
の銀原子がSz↑だけを通過させるSGz装置
|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |
SG z
Sz
block
を通過する確率は、この状態に|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |を作用させた状態が|Sz ↑⟩ ⟨Sz↑ |S⟩=|Sz↑⟩sz↑ で あることから、
⟨S|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |S⟩=⟨S|Sz↑⟩ ⟨Sz↑ |S⟩=|sz↑|2 で与えられる。同様にSz↓だけを通過させるSGz装置
|Sz↓⟩ ⟨Sz↓ |
SG z
Sz
block
を通過する確率は
⟨S|Sz↓⟩ ⟨Sz↓ |Sz↓⟩ ⟨Sz↓ |S⟩=⟨S|Sz↓⟩ ⟨Sz↓ |S⟩=|sz↓|2 で与えられる。ただし、もともとのSGz装置